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サアアンスン:Villy Sørensen (1929 - 2001)

オススメの作品は?

サアアンスンの初期の作品、1953年の処女作Sære historier(『奇妙なお話』)、1955年のUfarlige historier (『人畜無害なお話』)1964年のFormynderfortællinger(『後見人物語』)の中に収められた数々の短編物語。そのなかでどれか一つを選ぶとすれば、やはり最初にめぐりあった“En glashistorie”(「ガラスのお話」『後見人物語』所収)でしょうか。1929年生まれのサアアンスンは私の母と同い年。まだ生きていても不思議ではないのですが、2日前に紹介したスィーベアと同じく70歳前半に残念ながらガンで亡くなりました。純文学作家としてだけではなく、哲学者、社会変革者、古典文学案内人として現代デンマーク文壇を牽引してきたもっとも重要な作家の一人です。サアアンスンが物語の文体と作風で一番影響を受けた作家はアンデルセンとカフカだと言われています。最後の数年間は毎年ノーベル賞の候補者としてノミネートされていただけに、北欧各国では彼の死を悼む声がしばらく続きました。この「ガラスのお話」は、アンデルセンの「雪の女王」のパロディー版です。「雪の女王」の中の二人の少年少女、カイとゲアダは、男女名が転換し、カヤとゲアトに、そしてトロルの落とした鏡の破片は、新時代のメガネ(コンタクトレンズ)となります。アンデルセンは話の結末を「真実の愛がすべてを救う」ハッピーエンドへと導きますが、サアアンスンは「真実の愛を見失った現代人の悲劇」をアイロニカルに描きます。一見平易な語りで現代社会が抱える不条理を露呈する筆致は「見事」の一言につきます。

サアアンスンの作品に触れるきっかけは?

大学の授業で取り上げられた上記オススメの短編を読んだことがきっかけです。簡単そうで難しい内容、重層的な読みが可能な作品は、1960年代からアカデミックな世界において常に分析や論議の対象となってきました。また文学作品以外の現代社会批評、北欧神話やギリシャ神話再話を始め古典哲学・文学案内の数も膨大で、私には常に近寄り難い作家の一人ですが、またデンマーク文学に関わる以上、逃れられない作家でもあります。彼の写真をみてください。ちょっと悪魔的で、彼に見つめられれば魂を射抜かれそうです。ただ実際の人柄はとても穏やかで気さくな優しい性格の方だったと聞いています。

リンクにある Politiken 社による新聞記事では、あるデンマーク語のラジオ番組が紹介されています。その番組では、生前 Villy Sørensenと6年にわたって文通をしていたという1人のデンマーク人男性へのインタビューが行なわれています。この男性は長年、精神的な病いを患い、いざ病院から退院することが決まったとき、誰か自分にとって賢人と呼べる人のアドバイスが欲しいと、Villy Sørensenに手紙を送ったといいます。それに律儀にも、誠実に返事を書いたVilly Sørensen。彼の優しい人柄が表れているエピソードです。彼らの文通は、Villy Sørensenが亡くなるその年まで続いたそうです。
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