この動画は、Dorrit Willumsen と夫のJess Ørensbo が2016年におよそ50年ぶりに揃って公の場でのインタビューに答えたものです。2人の出会い、暮らしている家、書くということについて、色々なテーマで話をしています。途中、Willumsen 、Ørensbo 共に自身の作品を読み上げる場面がありますが、Ørensbo が詩を読み上げる際の Willumsen の嬉しそうな表情が印象的です。

ヴィロムスン:Dorrit Willumsen (1940 - )

オススメの作品は?

ヴィロムスンのオススメの作品選びにはずいぶん迷いました。個人的な好みと一般の評価、この両者を重ね合わせると、間違いなく1997年に発表した小説Bang(『バング』)になるでしょう。これは私の好きな作家バングHerman Bang(12月3日に紹介)の伝記に取材した小説です。しかもヴィロムスンがこの小説を書きあげるためにどれほど綿密な調査を行い、調査にどれほど時間をかけたかを後日直接本人から聞いたこと、またこの小説で彼女が同年、北欧理事会文学賞を受賞したことなども鑑みれば、おそらく私のみならず多くの人が彼女の代表作として認めるところだからです。ただ彼女がこれまでに3度来日を果たし、彼女自身の美意識と日本観がないまぜとなり、いかにも彼女らしい文体に仕上がっている作品を選ぶとしたら、1989年に発表した短編小説集Glemslens forår(『忘却の春』)の中の短編 ”Lakstykker”(「漆器」)になります。ヴィロムスンは1965年にデビューして以来、今日まで30作品以上を執筆、70歳になるまでは、ほぼ2年に1作のペースでコンスタントに新作を発表してきた勤勉な作家です。主なジャンルは短編小説と長編小説が半々くらい、それに加えて伝記的な小説です。作品の特徴はジャンルやテーマではなく、一貫して変わらない文体にあります。女性作家として、女性という性の抱える問題に向き合い、女性特有の世界を描き出している点は同時代女性作家と共通していますが、文体は60年代から今日に至るまで時代に左右されることがほとんどありませんでした。モダニズムに特有な文体、つまり日常を非日常的に、悲劇をユーモラスかつ怪奇的に、そして具象を抽象的に表現したもので、簡潔な文章でありながら常に感覚的な隠喩に富んでいます。短編「漆器」の中のデパートのエレベーターガールの描写など、これまでの彼女の作品に登場する女性に通底しており、それは究極的には主人公になぞらえた作者自らを見ているような、語りも作者自身が呟いているような感覚。昨今注目され始めた「オートフィクション」というジャンルをすでに用いているように思います。

ヴィロムスンの作品に触れるきっかけは?

彼女の作品の出会いの前に、まずは彼女自身との出会いがありました。私が1987年1度目の留学を終えて帰国した年の秋、彼女を含む北欧文学作家の一団が来日、当時の大阪外国語大学デンマーク語学科で各々の作品の朗読会を開いてくれました。文学が衰退の一途をたどる現代にあって、なんと贅沢な機会だったことでしょう。その朗読会の後に、私は厚かましくも一番恥ずかしそうにしていたヴィロムスンに直接話しかけました。この先デンマークに再び留学する予定であること、そして再びお目にかかれれば嬉しいと伝えると、親切にも後日連絡先と連絡方法を記した手紙を送ってくれたのです。それからデンマークに行く度に彼女と彼女の夫で作家のウーアンスボー(Jess Ørensbo)を訪ねてきました。残念ながらここ数年私がデンマークに行くことができず、彼女との交信もクリスマスカードのみになっていますが、彼女はいついかなるときも誠実な人。彼女が描く「一見内気で、遠慮がち、抑圧された女性に見えるけれども、実は芯のある強い」人とはまさに作家自身ヴィロムスンだと感じています。Lillejuleaften(クリスマスイヴの前日12月23日)に彼女を紹介できたことを心から嬉しく思います。