この動画では、Kirsten Thorup がどのようにして作家になったのか、また自身の執筆活動について語られています。

トーロプ:Kirsten Thorup (1942 - )

オススメの作品は?

1982年に出版、1988年に映画化されて話題を呼んだHimmel og helvede(『天国と地獄』)です。トーロプは1967年に詩人としてデビュー。初期の詩集は60年代のモダニズム詩の影響を受けて創作されたものですが、結局詩人として頭角を現すことはありませんでした。その後70年代後半より自伝的な色合いの強い小説4部作を発表します。 Lille Jonna(1977『小さいヨナ』)、Den lange sommer(1979『長い夏』)、 Himmel og helvede(1982『天国と地獄』)、Den yderste grænse(1987『最果て』)です。この4部作の3作目『天国と地獄』は高校生の少女が独り立ちし、親の元を離れ、恋愛、挫折を経験しながら大人の女性へと成長を遂げる自己成長物語です。北欧では70年頃から女性解放運動が加速し、その勢いで女性文学が隆盛してくるなか、最も一般女性の心を掴むことができたのがトーロプだったのではないかと思います。『天国と地獄』はペーパーバックで600ページを超える大作ですが、とても読みやすい文体で書かれています。小説の時代背景は60年第後半から70年代にかけてですし、社会リアリズム系の作家なので現代の若い学生さんにはピンとこない作品かもしれません。ただ最近トーロプ74歳にして、新作を久々に発表、再び話題を読んだ作品Erindring om kærligheden(2016 『愛の追憶』)はまさに先の4部作の延長線上にあると言われています。時代背景のスタートを再び70年代に設定し、70年代から現代に至るまで、ほぼ半世紀にわたる母娘の愛と葛藤をテーマに、現代の文体で再構成したピカレスク小説(過去に流行した小説の形式をなぞらえて現代の社会を痛烈に批判する小説のジャンル)と評され、今年度の北欧理事会文学賞を受賞しました。私自身、この作品はつい最近注文したばかりでまだ読んでいませんが、この両作品を読めば、私の世代、そして現在の若い学生さんたちと「女性の意識の目覚め」について面白く議論できるかもしれません。

トーロプの作品に触れるきっかけは?

私が最初の留学生活を送った1986年、4部作のうちの最初の2部作『小さいヨナ』と『長い夏』を読んだのがトーロプの作品に触れるきっかけとなりました。その時はもうすでに『天国と地獄』は出版され話題作となっていたのですが、なんせ600ページを超える大作ゆえ、正直なところ読む勇気は湧きませんでした。当時はちょうど散文よりもモダニズム詩が隆盛してきた時期でもあり、詩に自らの心象風景を重ねることの方が好きでした。ところが1992年に2度目の留学生活を終え、大学に職を得て初めて受け持ったゼミの学生さんの卒論が、この『天国と地獄』だったのです。彼女は前年にデンマークで留学生活を送り、ちょうどその時、本と映画の両方に触れてとても共感し、卒論で取り組む決心をしたようです。わずか1年に満たない留学生活でこの大作を読み切り、卒論で取り上げたことにとても感心したのを覚えています。そしてその学生さんの卒論の指導にあたるために、私も必死で読みました。映画化された作品「マリアの泉」(1989年に日本で公開)はいわゆるヒューマンドラマで、この作品は当時、大阪の日本橋にあった小さな映画館で上映されました。