ディトレウスン:Tove Ditlevsen (1917 - 1976)

オススメの作品は?

今日はディトレウスン生誕100年の記念日です。ディトレウスンは1939年に詩人としてデビューして以来、40年代から自ら命を絶つ1976年まで、詩人として、また自己を赤裸々に語る小説家として人々の心を深く惹きつけて止まなかった国民的女性作家です。オススメの作品は小説ではGift(『結婚』1971)、詩集では処女詩集“Pigesind”(『乙女ごころ』1939)です。『結婚』は彼女の作家人生の中では晩年の作品です。このタイトル ”Gift“ にはもう一つの意味、「毒」も込められています。彼女の小説の大半は自伝的な体験が下敷きとなっています。ノスタルジックに幼年時代を語ったBarndommens gade(『幼き日の小径』1943)に比べると、この最晩年の作品は4回にわたった彼女の壮烈かつ悲劇的な結婚生活、そしてその結果、薬物中毒者になった人生が痛ましく書き込まれていて、決して気持ちよく読める作品ではありません。まさにタイトルの示唆する二重の意味がそのまま彼女の生を映し出しているからなのです。でも小説を読むとき、あまりセンチメンタルな気分を味わいたくない私としてはちょっと毒気のある晩年の作品により魅力を感じます。逆に韻文は処女詩集の『乙女ごころ』が最高です。韻を踏んで少し古典的な響きがするところ、リリカルでナイーブな言葉の選択が純粋に綺麗だなと感じます。

Tove Ditlevsen の作品に触れるきっかけは?

私がデンマークに留学した最初の年に公開された映画 ”Barndommens gade”(Astrid Henning-Jensen監督 1986)を観たのがきっかけでした。まだデンマーク語を話す能力も聴く能力も読む能力も備わっていなかったので、話の内容はほとんど理解できなかったと思います。ただ画像に映し出された1930年代のコペンハーゲンの裏通りVesterbroの光景、主役を演じた14歳の少女役の女優が作家Ditlevsenと同様、とても美しくて可憐だったこと、そして何よりもこの映画の主題歌を歌っていたAnne Linnetの歌だけははっきりと耳に焼きついています。Linnet はDitlevsenの詩にも数多くの曲をつけている今なお現役のシンガソングライターです。80年代後半から文学も音楽も社会リアリズムからポストモダニズムへと移り変わる中、ディトレウスンの作品もAnne Linnetもしばらく影に隠れていたように思いますが、最近またリバイバルの兆しが見られているようです。ちょうど日本でも80年代に流行った昭和歌謡曲が再燃の兆しを見せているのと似ていますよね。

Ditlevsen 自身が、Pigesind の所収されている詩 En Kvindes Frygt を読み上げています。
Anne Linnet による Barndommens gade のミュージックビデオです。