2013年に作家生活50周年を迎えた Svend Åge Madsen のインタビューです。Rikskovの自宅にて撮影。

マスン:Svend Åge Madsen (1939 - )

オススメの作品は?

マスンはちょっと風変わりな作家です。風貌そのものからもその味わいは大いに滲み出ています。純文学とSF小説を足して2で割ったような作品をたくさん書いています。オススメは作家としての円熟期に創作されたマスンの代表作の一つLad tiden gå(『時の赴くままに』1986)です。この作品はキェルケゴール(12月11日紹介)の哲学小説『反復』から影響を受けているということで、キェルケゴールの原書講読がデンマーク語習得の目標という志を抱いて社会人入学してこられたKさんと一緒に読みました。授業では、キェルケゴールの『反復』とマスンの『時の赴くままに』に見出される間テクスト性を追求するなんていう難しいことは一切顧みず、約200ページの作品を半期で読み終えたことが今更ながら懐かしく思い出されます。作品にはヤイデ教授というフランケンシュタイン博士を彷彿させるような怪人物ともいうべき物理学者が登場するのですが、その変人学者をめぐる周囲の人物たちとの不思議な関係が様々なエピソードを交えて非時系列的に、ときに何度も反復されながら語られていきます。文体としては読みやすく、会話も多いので、結構スイスイ読める作品です。しかしストーリー性はなく、時系列通りに物語は進まず、タイムスリップを繰り返すので、読む側はときにどこまで読んだのか分からなくなってページを繰り直すこと甚だし。しかもしっちゃかめっちゃかのエピソードが錯綜し、劇中劇あり、笑いあり、それなのになぜか哲学的な物語です。まずは自ら劇中人物になったような気になって読むのがオススメです。

Svend Åge Madsen の作品に触れるきっかけは?

1980年代から1990年にかけてのデンマーク現代文学の詩や短編小説を集めたアンソロジーに収録されていた短編 “Datalogen Tomas Emil Fants fortælling om skæbnen”(「コンピューター科学者トマス・エミール・ファントの語る運命譚」『七つの運命譚』1988所収)に触れたことがきっかけです。「科学者が運命を語る」というどことなく不自然なタイトルからして、すでにこの物語の二重性、あるいは逆説性がほのめかされています。主人公は無限の基数の研究に没頭している科学者。自らの母親の臨終からの蘇生体験を見たことがきっかけとなり、「死後の世界」についての疑問が常に頭から離れなくなります。次第に科学的な論理思考に行き詰まり、ついに彼は自らを二人の自己に分解する科学的実験に成功し、二つの自己の間を行きつ戻りつ、現実と非現実の世界を行き交う話です。分裂する自己のアイデンティティの行方を探るというテーマは、いつの時代にも取り上げられてきた普遍的な文学テーマですが、マスンの特徴は重厚なテーマを扱いながらも、必ず話の落としどころにユーモアが見られるところだと思います。また現在IT世界の最先端を進んでいる北欧の一側面をすでに30年前に予測していたような感じのする作品でもあるのです。