Utas værelse
Theodor Kittelsen
テオドール・キッテルセン
本日はノルウェーの画家、テオドール・キッテルセン(1857-1914)をご紹介します。
筆者はこのアドベント企画までキッテルセンのことを知らなかったのですが、ノルウェーでは今でも人々に愛されている、大変人気のある画家の一人だそうです。今回はキッテルセンの描いた、妖精や妖怪などの、民話の中のキャラクターなどを中心にご紹介していきます。(かわいらしい絵が並ぶかと思いきや、中にはぎょっとする絵もありますので、苦手な方はご注意を…)
【トロル】
トロルは北欧全体で信じられている妖精ですが、ノルウェーという土地はトロルと特に大変深い結びつきにある場所です。ノルウェーのおみやげ物にはよくトロルがモチーフとして使われていますし、フィヨルドの名前にもトロルと関連した名前が見られます。日本でも人気のある絵本「がらがらどんと3匹のやぎ」(福音館書店)にもトロルが登場していますね。(この絵本、実はノルウェーの民話のお話なんです。)
フィヨルド:トロルのはしご
フィヨルド:トロルの舌
険しい岩壁のフィヨルドの画像や、ノルウェーの森の画像を見ていると、大きな大きな岩のような怪物が自然の奥深いところで暮らしているという民話が生まれるのも、うなずけるような気がしますね。
キッテルセンはノルウェーのトロルについての絵本に挿絵をつけており、この絵本は日本でも『ノルウェー トロルのふるさと』(出版元:MEDUSA, 1991)として出版されています。
絵本の表紙になったイラスト
この絵本の中で、以下のようなトロルが描かれています。
一つ目のトロル
自分の年齢を考えるトロル
また下の絵は一見すてきな白熊とお姫様のイラストですが、この白熊はトロルの魔法で白熊に変えられた王子とのことです。
この絵本の挿絵の他にも、自然と調和したトロルたちの姿を描く絵が数多く生み出されています。
これらの絵を見ていると、キッテルセンにとってトロルは単なるおとぎ話ではなく、自然の中に実在するものとして映っていたであろうことが窺えます。
ノルウェーのとあるキッテルセンの紹介パンフレット(Th. Kittelsen the People's Artist)の表紙に、こんな言葉がありました。
“He may not have created the trolls, but he showed us what they looked like”
「キッテルセンはトロルを創り出したのではなく、彼らがどんな姿をしているかを我々に見せてくれたのである。」
この表現がなぜか、とても正確なものに思われてなりません。
【ヌッケン】(Nøkken)
このキャラクターをご存じでしょうか。
湖などで、何も知らない旅人を水の墓へと引きずり込む妖怪です。
光っている目がなんとも恐ろしいですね…
白馬に乗った少年が湖に飛び込む2つ目の絵は、一見すると美しい絵ですが、右の方をよく見ると… だんだんと湖の植物が怪物の姿をしていることに気付くと思います。背筋がぞくっとするような光景が、さらっと自然の中に溶け込んで描かれています。
ヌッケンの絵は実はキッテルセンの生誕160周年の際に一部の国でGoogleのトップ画像に使用されていたそうです。全然気づけていなかったのですが、なんとも不気味な空気が漂うトップ画像になっていたのですね
2017年に一部の国で表示されたGoogleのトップ画像
他にもキッテルセンは黒死病を「ぺスタ」という小さな老婆に擬人化して描いた物語や、ノルウェーの自然を描いた風景画などを生み出しています。
それにしてもおどろおどろしい妖怪や疫病の姿から、美しいノルウェーの自然までキッテルセンの描くモチーフの範囲は広いですね。でもキッテルセンからすればどれも自然の一部であって、とりたてて区別するようなものではないのかもしれません。
なおノルウェーには、キッテルセンとゆかりのある施設が複数あるようです。
ノルウェーに旅行される際に立ち寄ってみられるのも良いかもしれません。
・キッテルセンの幼少期の家(Kittelsenhuset)
ノルウェーのKragerøのTelemark Museumの一部として、キッテルセンが幼少期を過ごした家があるそうです。Telemark Museumは通年営業のようですが、キッテルセンの家は夏だけの開館とのことで、ご注意ください。
・キッテルセンミュージアム(Kittelsenmuseet)
コバルト鉱山の隣に、1993年に設立されています。キッテルセンの子どもである、Nanna TheodorとHelge Theodorが設立やコレクションの拡大に尽力しました。
※ミュージアムの開館は不定期になっているようです。
・オスロ国立美術館(Nasjonalmuseet)
ムンクの絵などが収蔵されていることで有名なオスロ国立美術館に、キッテルセンの絵も数多く収蔵されているそうです。
とても素敵な世界観を持つキッテルセンの絵。日本でももっと知名度が上がればいいなと思います。
今回も最後までお読みいただきありがとうございました。
それではまたお会いしましょう!👋
(デンマーク語専攻卒業生 勝矢博子)
参考資料
Jess Scott, Life in Norway, Theodor Kittelsen: the Norwegian Fairytale Artist,
https://www.lifeinnorway.net/theodor-kittelsen-fairytales/
Telemark Museum, Kittelsenhuset, Kittelsenhuset - Telemark Museum
Godt sagt AS, Blaafarveværket, Kittelsenmuseet, The Kittelsen Museum • Blaafarveværket
Nasjonalmuseet, Norwegian fairy tales, Fairy tales – Nasjonalmuseet
Mark Littlefield, Th. Kittelsen the People’s Artist,
https://www.amscan.org/wp-content/uploads/2020/03/Pages-from-SR-Fall-2018.pdf
あらぞらの発見,テオドール・キッテルセンはノルウェーの画家です,https://www.alazora.com/entry/2017/04/27/003336
2018–2021 北欧の画家ハンマースホイ(ハマスホイ)の世界,ヴィルヘルム・ハンマースホイの世界,キッテルセンとトロール/画家のエピソード,
https://www.vilhelmhammershoi.net/kittelsenepisode/
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