Tom Kristensen の Hærværk は、2014年に王立劇場にて舞台化されています。

クレステンスン:Tom Kristensen (1893 - 1974)

オススメの作品は?

クレステンスンは詩人としても小説家としてもその名を知られたデンマーク戦間期から戦後を代表する作家です。彼の代表作といえば、誰もがきっと長編小説のHærværk(『破壊』:1930)を挙げることでしょう。この作品は作者の半自伝的作品だからかもしれません。首都コペンハーゲン、とりわけ都会の退廃的な夜の世界の描写が際立っていると言われています。でも正直、私はこの小説を読みきっていないのです。途中で挫折したままです。オススメは彼の短編小説“De forsvundne ansigter”(「消えてしまった顔」1934 『羅針盤』所収)と詩「フジヤマ」です。「消えてしまった顔」は小泉八雲の怪談の「狢(むじな)」に影響を受けて創作されたものです。詩「フジヤマ」は先のJohannes V. Jensenと同様、クレステンスンが1922年に来日した時に船の中から仰いだ富士の印象を詩に表現したものです。彼の捉えた富士は多くの外国人が抱いた感慨とはかなり違っていました。彼は富士に失望したのです。こんな一節があります。「天は神聖なる畏れから/ひと筋のしわを得た/それがフジヤマだった/ただのしわ/目も口もない/天の老いた顔が/束の間のあいだ/悲しみを露わにした」クレステンスンにとって、富士はたしかに天山でした。でもそれは「目も口もない」天の面として、あたかも「むじな」のように人を惑わすものに感じられ、富士に抱いてきた期待は夢の中の幻想へと化してしまったのです。

Tom Kristensen の作品に触れるきっかけは?

クレステンスンに出会ったのはデンマークの表現主義芸術に惹かれて、文芸誌Klingen(12月8日のHeinesenを項目参照)に夢中になっていたときでした。クレステンスンもこの文芸誌で活躍した表現主義の画家たちの影響を大きく受けています。デンマーク・モダニズム文学第一世代を代表する作家として、今一度、彼の代表作『破壊』には挑戦してみたいと思います。詩「フジヤマ」に抱いた彼の日本観は、石膏のように白粉で表情や感情を覆い隠した古典的な日本人女性に対する不気味さとも相まって、かなり否定的に表現されています。そこには得体の知れぬ世界に対する恐怖や不安がアイロニカルにそして率直に表現されているよう思われます。ひと昔前、西洋人が皆口を揃えて「ゲイシャ、フジヤマ」という言葉で短絡的に日本を象徴した時期がありましたが、クレステンスンの日本観はそれとは一味違っていて、私にはとても新鮮でした。